- 『留学』
(遠藤周作著、文藝春秋新社1965年)
留学の本質とは?期待と違和感のせめぎ合い
『沈黙』を著した遠藤周作が描く、3人の日本人のヨーロッパ留学の日々。期待していた「外国」に身を置く喜びと、「こんなはずじゃなかった」と裏切られる期待の連続のなかで挫折し、迷い、けれども奮闘する姿に、読者は「留学とは何か」という本質的な問いを突きつけられる。何のために留学するのか。自分はなぜ留学をしたいのか。今の時勢だからこそ腰を据えて考えたい問いが詰まっている。
- 『グローバル社会における異文化コミュニケーション:身近な「異」から考える』
(池田理知子・塙幸枝編著、青沼智他著、三修社2019年)
留学しなければわからないものとは?
「異文化理解」「異文化体験」は留学のひとつの目的とされることが多い。しかし「異文化」なるものは必ずしも「外国」にしか存在しないものではない。あなたは、今あなたの隣にいる人のことをどれだけ「わかって」いると言えるだろうか。「異文化」なるものは実は身近にたくさん存在することを教えてくれる一冊。「なぜ外国語を学ぶのか」について検討している章も必見。
- 『留学で人生を棒に振る日本人―“英語コンプレックス”が生み出す悲劇』
(栄陽子著、扶桑社2007年)
留学する前に知っておくべきこと
アメリカの教育システムとは?留学エージェントとは?「留学の第一歩は英語学校から」は正解なのか?アメリカの「大学」を卒業したのに、就職できないことも。留学しても英語のできない人が多い理由、“留学”の第一人者がそれを暴く。
- 『トビタテ!世界へ : 「世界」と「日本」、そして「自分」を再発見する留学のすべて』
(船橋力著、リテル,フォレスト出版 (発売)2019年)
留学を通した「自己発見」に向けて
「正解のない時代」を生き抜くグローバル人材の育成を目的に立ち上がった国家プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」。プロジェクトディレクターである著者が、自身の越境体験とプロジェクトの軌跡から、『世界を舞台に「生きる力」を育むノウハウ』について綴る。
- 『これからの大学』
(松村圭一郎著、春秋社2019年)
大学とはどのような場所なのか
留学をしても、大学に通うことにかわりはない。ならば、大学とは何か、大学には何のために通うのか、そもそもなぜ私たちは学ぶのか、という根本的な問いに思いを巡らせることも有意義だろう。そうすれば、海外の大学で学ぶことの意義や可能性も浮かび上がってくるかもしれない。
- 『ロケーションとしての留学:台湾人留学生の批判的エスノグラフィー』
(塩入すみ著、生活書院2019年)
留学はいかに政治的に価値づけられてきたのか、日本への外国人留学生の例から考える
留学の意味と価値は、近年の日本において就労や自己実現といった他の価値づけと交わりながら、その境界が急速にあいまい化しつつある。本書は台湾人留学生のエスノグラフィをもとに留学の重層的な意味と価値を描き出す。留学の歴史的・政治的な意味やジェンダーの問題、ナショナリズムに関わる問題を考えてみることで、留学を捉える視点もまた広がるだろう。
- 『異文化理解の視座 : 世界からみた日本、日本からみた世界』
(小島孝之・小松親次郎編、東京大学出版会2003年)
世界と日本文学
「日本文学」と「留学」はどのように結びつくだろうか?あまり留学には縁のない、特に日本から留学することは想像がつかない、という方も多いのではないだろうか。日本文学と留学を結びつけるものとして、翻訳や資料調査、国際会議などがあげられる。海外では、日本文学がどのように読まれているのか、どのようなきっかけで日本文学に触れるのか、など、学びと研究の様相を知るきっかけになる一冊。
- 『天と地の上で : 教皇とラビの対話』
(教皇フランシスコ,ラビ・アブラハム・スコルカ著、八重樫克彦・八重樫由貴子訳、ミルトス2014年)
留学前に宗教について考えてみよう(1)
日本の日常生活において、宗教を意識する事はあまり多くないだろう。確かに、毎年クリスマスや初詣でなどの大々的イベントが世間を賑わせるが、それが個々人の信仰心の篤さと必ずしも一致しているわけではなさそうだ。とはいえ、例えば亡くなったペットをゴミ箱に捨てる人がおよそいないように、完全な無宗教であるとも言えない。人々は大なり小なり宗教的感覚を伴って生活している。
さて、留学生活の中では、ときに宗教について考え議論する機会があるかもしれない。そのときに単なる各国の「特徴紹介」に終わらせないためにも、コミュニケーションの前提としての人々の生活における宗教的分脈を捉えることは重要だ。つまり、宗教や信仰との距離が近い社会を生きる人々が、どのような考え方や生き方を実践しているか、その振る舞いを理解することは、きっと留学での新たな気づきに繋がるだろう。
本書はカトリックの教皇とユダヤ教のラビの対話編である。神、無神論、宗教指導者、死、ジェンダー、政治、権力、中東問題、貧困、宗教間対話など様々なテーマ別に、それぞれの姿勢が記されている。留学の実用本ではないかもしれないが、きっと「留学経験」の糧になる一冊。
- 『ヒンドゥー教10講』
(赤松明彦著、岩波新書2021年)
留学前に宗教について考えてみよう(2)
留学先で南アジアにルーツを持つ人々と出会うことはそれほど稀な事でもない。アメリカ、アジア、中東、欧州諸国のみならず、今や世界中にインド系住民が暮らしている。もちろんインドに留学すればより鮮烈な出会いがあなたを待っていることだろう。
インドにはヒンドゥー教だけではなく、イスラーム、キリスト教、仏教、スィク教、ジャイナ教など様々な宗教コミュニティが存在する。しかし、国全体としてはヒンディーが多数派であり、さしあたりこれらの人々の世界観を知っておくことは、有意義な留学準備になるだろう。とはいえ、ヒンドゥー教と一口に言っても様々な歴史的変遷や、地域による差異なども存在する。本書は、インド哲学を専門とする著者が講義形式でヒンドゥー教の歴史や諸観念を簡潔に整理している。最適な入門書になるはずだ。
- 『近代日本海外留学の目的変容:文部省留学生の派遣実態について』
(辻直人著、東信堂2010年)
なぜ留学をするのか
なぜ留学をするのか。それは、個人的な動機だけではなく、社会的背景の影響も受けている。本書は、留学の歴史を紐解き、近代日本における留学の目的変化を分析することで、現在の日本人の留学観の前提ともなった社会認識を明らかにしている。留学の意味や目的を考え直すきっかけとなる一冊。留学に限らず、国際関係や歴史に興味のある人にもおすすめしたい。
- 『私の海外留学体験記』
(ICS国際文化教育センター編、大修館書店1995年)
気軽に読める様々な留学体験記
留学の目的は人それぞれ違うように、留学の体験も人それぞれである。同じ国に留学しても、同じ学校の同じコースに所属しても、そこで得る経験は千差万別である。本書は複数の留学経験者の体験談をまとめた一冊。留学の時期は少し昔だが、留学への期待や不安、準備、現地での体験、人間関係についてなど時代に左右されない内容も多い。他の人の体験記を読むことで、自分の留学の目的がはっきりしてくるかもしれない。気軽に読める一冊。
- 『文士たちのアメリカ留学』
(佐藤禎著、書籍工房早山2018年)
文士とアメリカ留学の関係について
「ロックフェラー財団による文士のアメリカ留学とはなんだったのか」。そうした問いを主題に掲げる本著は、一九五三年〜一九六三年におけるアメリカ留学と文士の関係に留意する。戦後まもない時期におけるアメリカ留学は、どのように捉えられていたのか。文士たちはそこで何を見て、何を感じ、何を思ったのか。阿川弘之、大岡昇平、安岡章太郎、庄野潤三、小島信夫など、戦後文学の担い手と称される彼らと、アメリカの留学との関係を本著は紐解く。コロナ下でグローバルな移動が制限されているなか、文士たちの留学生活を追跡する本著は、私たちに戦後日本におけるアメリカ留学の意味や目的を多角的に示してくれるだろう。
- 『多文化世界 : 違いを学び未来への道を探る(原書第3版)』
(Hofstede, Geert H, Hofstede, Gert Jan, Minkov, Michael著、岩井八郎、岩井紀子訳、有斐閣2013年)
留学する前に、グローバル時代の多文化世界について考えてみよう
異文化体験を通じてグローバル時代に求められる能力を身につけるのは留学の目的の一つだろう。このため、「グローバル社会とは何か」、「このような時代に何が求められるか」を知ることは、これからの留学生活に役に立つでしょう。本書は、76におよぶ国と地域での価値観調査に基づいて、グローバル社会を、国民性(人間)と文化(組織)の違いから読み解く。多様な価値観を織りなした「多文化」世界で、どのような違いが存在するのか、如何にそのような違い(異文化)を理解して対応するのか、「多文化共生」という視点がなぜグローバル時代において重要なのかを教えてくれる。多様な考え方や行動の仕方がぶつかり合う「多文化世界」の理解にきっと有用な一冊である。
- 『海外留学がキャリアと人生に与えるインパクト―大規模調査による留学の効果測定―』
(横田雅弘・太田浩・新見有紀子編著、学文社2018年)
海外留学がその後の人生やキャリアにもたらすインパクトの検証
日本ではじめての大規模質問紙調査の結果から、海外留学がもたらすインパクトをさまざまな観点から分析した学術書。特に、職業キャリアや生活への満足度、市民意識などに対して留学経験が持つインパクトについて明らかにしている。また、留学制度の変遷や今までの海外留学の研究も整理されているため、自分の留学の社会的な位置づけを知るための参考にもなる。
- 『グローバル人材とは誰か 若者の海外経験の意味を問う』
(加藤恵津子・久木元真吾著、青弓社2016年)
日本の若者は内向きだ。だからグローバル人材の育成が必要だ。
この言葉になんだかモヤモヤしてしまうのは、この文章を書いている私だけではないはずだ。本書は、若者の階層やジェンダーの格差の実態と「グローバル人材」を求める大企業や政府官庁といった日本の中枢のギャップに着目し、日本社会における「グローバル人材」の語りを批判的に検討している。留学を含む海外経験が持つ意味を幅広い視点から問い直し、「グローバル人材」をより外に開かれたものとして捉えるための一助となるだろう。