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『マイノリティとは何か : 概念と政策の比較社会学』
岩間暁子, ユ・ヒョヂョン編著、ミネルヴァ書房(2007)
「マイノリティ」概念について一歩立ち止まって考えるために
普段何気なく使われる「マイノリティ」ということばは、いったい誰を指すのだろうか。本書はマイノリティ概念の国際比較を行い、マイノリティということばの指し示す対象が国や時代によって異なることを示し、さらに歴史的・社会的経緯や政策を踏まえて各国のマイノリティ概念の変遷を論じている。多くの社会学的研究で用いられながら、しかし同時に自明のものとされてもしまいがちなマイノリティ概念について、本書を通じて一歩立ち止まって批判的に考えることができる。
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『公共性の構造転換 : 市民社会の一カテゴリーについての探究』
ユルゲン・ハーバーマス著 ; 細谷貞雄, 山田正行訳、未來社(1994)
熟議民主主義論の基盤
著者であるハーバーマスは本書で、18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパにおける公共圏の発展と変容を論じた。市民による討議的なコミュニケーションを基礎とするハーバーマスの公共圏概念は、公共圏への参加可能性の限界などに関して批判を寄せられながらも、今日まで続く熟議民主主義論の基盤となっている。グローバル化やインターネットの普及など、現代民主主義を取り巻く社会状況を踏まえながら読みたい、現代的古典ともいえる一冊。
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『調査されるという迷惑 : フィールドに出る前に読んでおく本』
宮本常一, 安渓遊地著 、みずのわ出版(2008)
フィールド調査を行う前に目を通しておきたい一冊
本書ではフィールド調査を「される側」がどのような迷惑・被害を被り得るかについて、著者らの体験をもとにわかりやすく論じられている。訊問のように話を引き出そうとする、借りたものを返さないなど、「調査地被害」という表現に要約される数々の具体例は、調査を「する側」の立場性への自覚を促し、フィールドワーカーの襟を正してくれる。副題にある通り、フィールド調査を行う前に目を通しておきたい一冊。
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『外国人をつくりだす : 戦後日本における「密航」と入国管理制度の運用 = Embracing alien』
朴沙羅著 、ナカニシヤ出版(2017)
「国民」というカテゴリーを考える
本書は占領期日本において、在日朝鮮人が日本国籍を持ちながらもどのようにして「外国人」となったのか(「外国人」として登録され、管理・送還の対象とされたのか)について、インタビュー調査と文献資料調査から明らかにしたものである。国籍を基準にした「国民」というカテゴリーが権力のもとで容易に揺らぎ得ることを示した本書は、今日の多文化共生をめぐる課題を考えるうえで重要な視点を与えてくれる。本書ではさらに、インタビューを通して得られた語りの「真偽」をどのように考えればよいかについてまるごと1章を割いて論じており、質的調査の方法論的課題にどう向き合えばよいかを考えたいときにも参考になる。
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『集まる場所が必要だ : 孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学 = Palaces for the people : how to build a more equal and united society』
エリック・クリネンバーグ著 ; 藤原朝子訳、英治出版(2021)
パブリックな場所のあり方を考え直したい人へ
分断や孤立が進む社会を統合し、人びとを守り結びつけるためには、年齢や階級、人種・民族に関係なく互いに交流を楽しめる物理的な場所が必要だと著者は主張する。こうした「社会的インフラ」の例に公共図書館、公園、市民農園などを挙げ、フィールドワークをもとにそうした開かれた集まる場所が個人、コミュニティ、ひいては民主主義に対していかに恩恵があるかを描くのが本書である。コロナ禍を経て、対面的な関わりを持てるパブリックな場所のあり方を考え直したい人におすすめ。
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『公共性の喪失』
(リチャード・セネット著、北山克彦・高階悟訳、晶文社1991年)
「親密性による社会」の到来
現代の「公共性」を考えるための一冊。歴史の中にあった公的領域が後退し、個人や家族といった私的領域が拡大しているとする。つまり、政治、都市、メディア、消費などあらゆる領域の問題は個人にとってどれだけ親密かによって考えられるようになっているという。ヨーロッパ諸国の歴史的な記述が豊富で、社会の変遷などに興味がある人にもお勧め。
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『社会科学における人間』
(大塚久雄著、岩波新書1977年)
ウェーバー、マルクスに関する入門書
約40年前の本だが、社会学でも重要な古典であるウェーバー、マルクスの議論を「合理的行為主体としての人間類型」という観点からわかりやすく解説。また、社会科学(社会学、経済学、心理学、文化人類学など)の既存理論の相対化・より詳細な検討を可能にする「人間類型論」についても、その入り口を示している。NHK大学講座での連続講義を元にしており、文章が軽快で非常に読みやすい。学部1年生に特にお勧め。
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『社会はなぜ左と右にわかれるのか』
(ジョナサン・ハイト著、高橋洋訳、紀伊国屋書店2014年)
「パヨク」、「ネトウヨ」双方を理解するために
人間の道徳的判断が合理的な思考ではなく直感によるものであり、道徳基盤が深く関係しているとする本。道徳基盤には、「ケア/危害」「公正/欺瞞」「忠誠/背信」「権威/転覆」「神聖/堕落」「自由/抑圧」の6つのベクトルがあり、それぞれの強弱パターンによる「道徳マトリックス」が生じる。本書では、こうした「道徳マトリックス」が、社会における保守とリベラルの対立を理解するためにも非常に役立つことをアメリカ社会を例に示している。異なる政治的意見を持つ人々をどのように理解するか、また自身の考え方を相対化する上でも、画期的な視点を提供してくれる。
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『閉じこもるインターネット : グーグル・パーソナライズ・民主主義』
(イーライ・パリサー著、井口耕二訳、早川書房2012年)
ネット研究をする上で無視できない本
計算機能やアルゴリズムの発展に伴い、協調フィルタリング、パーソナライゼーションが進むインターネット。私たちが利用するインターネットは、オープンで自由な空間ではなく、個人の嗜好に沿った情報宇宙「フィルターバブル」にあるという。インターネットコミュニケーション研究、情報行動研究等を考えている学生にお勧め。
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『幻影(イメジ)の時代 : マスコミが製造する事実』
(ダニエル.J・ブーアスティン著、後藤和彦・星野郁美訳、東京創元社1964年)
大衆文化批判に関する良書
私たちが今日経験する多くの「出来事」は合成的に作り上げられたものであり、その領域はニュース、観光、有名人、広告、政治、etc…多岐に渡る。こうした私たち大衆の期待に応えるためにマスメディアによって製造される幻影(イメジ)を、私たちは現実として享受している。マスメディアが主流の時代、アメリカの大衆文化について鋭く指摘した古典。メディア環境が多様になった現在の状況も踏まえて読んでみるのもおすすめ。
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『ハマータウンの野郎ども』
(ポール・ウィリス著、熊沢誠・山田潤訳、筑摩書房1996年)
反学校文化と階級社会の意外なつながり
1970年代のイギリス、仮称ハマータウン。その労働者階級の不良学生たち=〈野郎ども〉が持つ独自の反学校の文化にスポットライトを当てる。そこには、現実を見抜きながらも、将来彼らが自己転落ともとれる形で労働者階級になることを選び取り、社会的再生産を助長する仕組みがあった。分析はマルクス主義的な色合いが濃いが、フィールドワークから特定の文化と社会の関わりを明らかにした名著。
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『摂食障害の語り ――〈回復〉の臨床社会学』
(中村英代著、新曜社2011年)
他者の経験を聞き、研究していくこと
近年、「摂食障害」という言葉は身近なものになってきたかもしれないが、当事者の経験は思いのほか遠い。本書は、かつて摂食障害に苦しんだ経験のある著者が、「人々は摂食障害からどのように回復しているのか」という問いを明らかにするために回復者へインタビューした研究の成果である。本書を通じて、当事者の語りに寄り添いながら社会を見つめ直す研究の豊かさやそのような研究が見出しうる希望にふれることができる。
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『分断と対話の社会学――グローバル社会を生きるための想像力』
(塩原良和著、慶応義塾大学出版会2017年)
ともに暮らす誰かへ思いを馳せるために
「分断社会」と盛んに言われるようになったが、自分は誰と分断されているのだろうか、どのような違いによって分断されているのだろうか。本書は、「分断」と言うことで分かった気になってしまわずに、自分が生きているこの社会やそこで生きているマイノリティを含めた他者を「知ろう」とするためのヒントを与えてくれる。そしてこのことは、他者だけではなく、なによりも自分にとって、この社会を生きやすいものにする一歩のように思う。