Law and Politics
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『資本主義リアリズム : 「この道しかない」のか?』
マーク・フィッシャー著 ; セバスチャン・ブロイ, 河南瑠莉訳、堀之内出版(2018)現代資本主義に対する”批判的な思考”に触れたい方へ。「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像する方がたやすい。」————これはフレドリック・ジェイムソンとスラヴォイ・ジジェクによる言葉だが、著者マーク・フィッシャーは本書の第一章のタイトルとして引用している。現代に生きる私たちにとって、資本主義とは当然の社会/経済体制であり、それに替わるシステムを考えることすら不自然に思われるだろう。しかし、拡大する貧富の格差、先の見えない景気停滞、とりわけ日本に住む私たちの多くにとって、おそらく資本主義システムがもたらす息が詰まりそうな閉塞感もまた現実のものである。そして世界に目を向けると、このようなシステムに異議を唱えるような政治現象も確認できる。とはいえ、このシステムそれ自体に代わる根本的な代替案については、考えることすら難しい。このようなある種の「諦め」を著者は「資本主義リアリズム」と表現している。本書は映画や小説、大学の風景などさまざまな側面から叙述がされており、読みやすく思考のヒントに満ちている。現代社会に生きる大学生として、現代社会に対する新たな視座————いわゆる"批判的な思考"に触れる機会としてぜひ本書をお勧めしたい。
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『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? : これからの経済と女性の話』
カトリーン・マルサル著 ; 高橋璃子訳、河出書房新社(2021)これからの、"新たな経済"を考えるために。「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?」——このことを考えたことはあるだろうか。アダム・スミスとは誰もが知る「経済学の父」であり、各人の自己利益の追求に基づく自由市場を説いた思想家だ。市場取引によってスーパーマーケットは食材を仕入れ、同じく取引によって私たちは食材を購入し、そうして今日も大半の人は夕食にありつける。もちろんそのような取引を行うために各人は自身の「労働力」を売り、対価としての賃金を得る必要がある——これも「労働市場」だ。「市場」は私たちの生活のあらゆる面に浸透している。しかしこのような「市場」への着目は、「家事労働」や「ケア」という営みを見落としていないだろうか?簡単に言うと、食材を買ってきたのは良いが、それは誰が料理をするのか?————本書は、従来の経済学では軽視されてきた「女性」に焦点を当てて経済を論じている。読みやすい文体で多くの重要なテーマを扱っており、読者をさまざまな思考へと誘うだろう。経済格差や人口減少などといった重大な問題を抱えた日本で本書を読んでみることで、あなたはどのような発見をするだろうか?