ジャン・ジャック=ルソーとは
ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)はジュネーヴで生まれ、主にフランスで活躍した知識人です。
知識人というのはあいまいな語ですが、それを用いたのには訳があります。ルソーは『社会契約論』を書いた政治哲学者であり、日本では教育論として読まれることの多い『エミール』の著者ですが、『新エロイーズ』という当時最大のベストセラーのひとつとなった恋愛小説や、近代的自伝を創始することになった『告白』という作品も著わしているのです。
それだけではありません。彼の知的好奇心は無限の広がりを持っていました。ルソーは独創的な音楽家・音楽理論家であり、音楽と不可分である言語の理論家でした。また演劇作品とその理論的考察を書き、化学や植物学の研究に没頭しました(近年、こうした領域における仕事は特に注目されています)。更に彼は独自の経済理論を展開しましたが、時代遅れだと軽視されてきた彼の理論を再評価する試みがなされ始めています。
つまり、ルソーは様々な知の領域に限りない情熱を注いだ、文字通りの知識人だったのです(もっとも多様性にのみ限定するなら、それは18世紀的「教養」のかたちに他なりません)。
こうした多様な領域での知的活動を通じて、ルソーは「近代」を創始したといわれます。その意味の詳細については各作品の紹介をご覧いただければと思いますが、ルソーが「近代」、あるいは「現代」にまで続く思考様式やものの見方を打ち立てたというのが本当なら、ルソーを読むことは、わたしたちが辿ってきた歴史を知り、わたしたちが「今」どのような場所に立っているのかを確認するための、極めて有益な作業となるのではないでしょうか。
ルソーを読むことが重要なのは、わたしたちが直面する困難な諸問題について考えるとき、幾つもの貴重なヒントを与えてくれるからでもあります。確かにルソーは18世紀に活躍した知識人ですから、彼の立てた問いはずいぶん古めかしいものです。けれども、ルソーはそうした問いについてどこまでも根源的かつ独創的に考えたので、その思考には、時代的制約を超えた、現代にでも十分通用するヒントを見出すことができるのです。
ルソーと共に思考すること、それは既存の問題設定それ自体を疑い(わたしたちの周りにあるとされる問題はどうしていつも似たようなものばかりなのでしょう?)、既成の価値観を問い直すことなのです(どうしてわたしたちに示される選択肢はかくも少ないのでしょう?)。ルソーを読むとは、結局のところ、ルソーと共に物事を根源的に考えることに他なりません。
(桑瀬 章二郎・本学教授)
本コレクションについて
刊行年 | 作 品 |
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1755年刊行 | 『人間不平等起源論』 |
1762年刊行 | 『社会契約論』 |
1753年刊行 | 『フランス音楽に関する手紙』 |
1763年刊行 | 『ボーモンへの手紙』 |
1762年刊行 | 『エミール』 |
1782/1789年刊行 | 『告白』、『孤独な散歩者の夢想』 |
1761年刊行 | 『新エロイーズ』 |
1764年刊行 | 『山からの手紙』 |
1780年刊行開始 | 18世紀版『ルソー著作全集』 |