5.引用・著作権

この章では、レポートおよび論文を書く上での基本ルールとして、「引用」の仕方と「著作権」について紹介します。

自分の意見と他人の意見を区別する

 引用とは、レポートおよび論文を書く際、自分の意見と主張を客観的に裏付けるために、他人の研究成果や意見などを自分のレポートと論文の中で紹介することを言います。この時、他人の研究成果や意見などをあたかも自分のものであるかのように使用すること(剽窃)は、絶対に許されません。
 あらゆる学問と研究は、先人達の生み出した知識の蓄積と自身の試行錯誤によってのみ、その地歩を固め、前進することができます。批判するにせよ賛同するにせよ、他人の研究成果や意見などに敬意を払いつつ、それらとの関係を見極めたうえで、自分の意見と主張を組み立てていくことが大切です。自分の関心のある分野の先人達がどこまで到達しており、自分はそれに新しく何を加えるのかを絶えず意識しながら執筆するようにしましょう。

著作権を尊重する

 先に述べた方針を法的な観点から整備したものが著作権です。著作権は、文書のみならず音楽、映像、絵画など各人の創意工夫に基づく様々な作品を対象としますが、ここでは、おもに学術出版物(書籍、論文、雑誌記事)について説明します。
 他人の著作物を引用したり、自分の主張の出典にしたりする場合、必ずこの著作権を遵守しなければなりません。具体的には、著者名、本の題名、出版者名、出版年、参照したページといった書誌事項を明らかにする必要があります。その原則を守らないと、自分の意見と他人の意見が区別できなくなり、剽窃(ひょうせつ)や盗作といった不正行為につながってしまいます。
 同様に、インターネット上の文書とデータも著作権の対象となることを覚えておきましょう。出典を示すことなくコピー&ペーストでレポートや論文を作成することは、紛れもない不正行為です。インターネット上の情報源を利用する場合は、作成者、文書・資料名、URL、閲覧年月日を明示しましょう。

どうやって利用するか?

 著作権を侵害せずに他者の著作物を利用するにはどうしたらいいのでしょうか。その基本的なルールを、引用の方法と文献の示し方に分けて紹介します。
 引用には間接引用と直接引用があります。引用の仕方は、学問分野によって異なりますので、細部については、課題を出した先生に確認しましょう。

 本文の引用文献と文末の文献リストの表記方法には、大きくハーバード方式とバンクーバー方式の2つの種類があります。ハーバード方式では、引用が終わったところで、(著者名, 出版年, ページ)のように記載し、文献リストには、登場した順に関係なく、著者名順に記します。バンクーバー方式では、本文中に登場した順に注番号を振り、番号順に文献リストに記します。ここでは一例として間接引用でハーバード方式、直接引用でバンクーバー方式を使っています。

間接引用(要約)

 間接引用は、ある著者の意見や主張などを理解したうえで、これを自分の言葉に置き換えてまとめることを言います。そのため、同じテキストでも多様な解釈が成り立つことはあり得ますが、自分の都合のよい飛躍した解釈をしないように心掛けましょう。著者の真意がどこにあるのかを丁寧に追いかけ、無理のないかたちで著者の意見をまとめることが大切です。基本的には、間接引用した文献注は、引用の要約が終わった横につけ、(著者名、出版年、ページ)のように記載します。著者名の表記は、フルネームとしません。

【引用例】

たとえば、ハーシュマンは時代を超えて保守派に用いられ続ける「反動のレトリック」を大きく3つに区分している。すなわち、1)改良を意図した行為は、いっそうの悪化にしか帰結しないとする「逆転テーゼ」、2)変革の試みは結局のところ徒労に終わるだけだとする「無益テーゼ」、3)改革の代償を強調し、過去の積み重ねが台無しにされるとする「危険性テーゼ」、である(ハーシュマン, 1997年, p.8-9)。
引用文献
ハーシュマン, アルバート O. (1997). 反動のレトリック : 逆転,無益,危険性. 岩崎稔訳. 法政大学出版局, p.8-9, (叢書・ウニベルシタス, 554).

直接引用(抜粋)

 直接引用は、あるテキスト中の文章をそのままの表現で引用することを指します。引用箇所は、送り仮名の表記も含めて、一字一句そのまま抜き出します。引用箇所をかぎカッコ「 」でくくり、引用範囲を明記します。誤字がある場合は、自分のタイプミスと区別するために誤字のすぐ脇、または後ろに「ママ」と表記し、省略しても差し支えない部分は、「…(中略)…」とすることもできます。直接引用の書き方は、引用文の長さによって異なる場合があります。
 なお、引用の際は、著者の意図を曲げないよう、前後の文脈関係に注意して引用箇所と自分の文章とを接合しなければなりません。恣意的で都合のよい引用は絶対に避けましょう。

【引用例】

ルソーは、理性の光が喧伝される啓蒙の時代にあって、理性の暗部を見ていた希有な思想家であった。彼は次のように、理性の力が社会疎外を高める可能性さえ指摘している。「利己愛を作りだすのは理性の力である。そして省察がそれを強める。省察においては人間は自己のうちに閉じこもるのである。…(中略)…哲学の力によって人は、苦しむ人を眺めても、勝手に死ぬがよい、わたしは安全な場所にいるのだからと、ひそかに呟くことができる」1)。彼にとって、理性の使用はまさに合理的計算であり、他者に対する共感の力を奪うものだと考えられたのである。
引用文献
1)ルソー. 人間不平等起源論. 中山元訳. 光文社, 2008, p.106. (光文社古典新訳文庫, KBル1-1).
2)……

文献の示し方

引用文献

 引用文献とは、前述したような要約と抜粋において、実際に本文中に引用した文献のことを言います。

参考文献

 参考文献とは、本文中には引用していないが、自分の意見と考えを展開する上で参考にした文献のことを言います。これは、読み手が書き手の議論から示唆を受けて、さらに深く考えようとするとき、すぐにその文献を見つけられるようにするための配慮です。

 引用文献と参考文献は、それぞれ文末に1行あけて、引用文献、参考文献という見出しの下に一覧にして提示します。表記方法は、【文献の提示例】を参照してください。

【文献の提示例】

 文献リストを作成する際の最低限必要な項目は以下の通りです。
・単行本:著者名、書名、出版者名(外国語文献の場合、出版地も必要)、出版年
・論文:著者名、論文名、掲載雑誌名、出版年、巻号数、掲載ページ

 実際の各項目の順番や書き方(スタイル)は学問分野によって様々です。先生に尋ねたり、自分の専門分野の雑誌を調べたりすることが参考になります。一つの論文の中では採用したスタイルのルールに従い、一貫した文献リストを作成することが大切です。以下に一例を示します。ここでは、科学技術振興機構が定めた『SIST02 参照文献の書き方』に基づいて記述しました。日本の人文社会科学系分野では書名に二重かぎカッコ『 』を使用するものもあります。そのほかには、法律編集者懇話会の『法律文献等の出典の表示方法』や日本社会学会の『社会学評論スタイルガイド』、米国現代語学文学協会の『MLAスタイル』、米国心理学会の『APAスタイル』などが代表的なものとしてあります。

  1. 単行本 内田義彦. 社会認識の歩み. 岩波書店, 1971, 209p.
  2. 翻訳書 キング, J.E. ポスト・ケインズ派の経済理論. 小山庄三訳. 多賀出版,2009, 423p.
  3. 雑誌論文 酒井啓子. イラク 空爆とフセイン政権. 世界. 1999, (659), p.165-171.
  4. 洋書 Sitton, John F. Habermas and contemporary society. Palgrave Macmillan, 2003, 197p.
  5. インターネット上の文書・資料 総務省統計局. “労働力調査: 平成26年11月分結果”. 統計局ホームページ. http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm,(参照 2015-1-29).
  6. 新聞記事 地震研究の見直し必要 文科省審議会. 朝日新聞. 2013-02-11, 朝刊, p.33.
  7. 事典の1項目 鈴木富志郎. “ドーナツ化現象”. 世界大百科事典, 20巻. 改訂新版, 平凡社, 2007, p.374
※表記方法については、p.3で紹介したMaster of Writingの「7.文献表の書き方」も併せて参考にしてください。