島村という東西舞踊研究家が、雪深い温泉町の駒子という芸者に惹かれて、数年の間たびたび訪れる。積極的に女をどうしようというのでなく、自分を人生葛藤の渦中から外側において駒子たちに瞬間的に現れる純粋な美の追求者としてふるまう所にこの作品の世界が成立している。駒子の彼への愛情が狂おしく昂まっていくにつれ、女の生命の美しさに深く魅せられる。島村のワキ役としての空虚さが、シテ、ツレの乱舞を映し出す鏡となっているところにこの小説の美的世界が成立している。
(山本健吉、『新潮日本文学辞典』より)
「君はいい子だね。」 | “You’re a good girl.” |
「どうして?どこがいいの。」 | “Why? Why am I good? What’s good about me?” |
「いい子だよ。」 | “You are a good girl.” |
「君はいい女だね。」 | “You’re a good woman.” |
「どういいの。」 | “How am I good?” |
「いい女だよ。」 | “A good woman” |
「それどういふ意味!ねえ、なんのこと?」 | “A good woman−what do you mean by that? What do you mean?” |
島村は驚いて駒子を見た。 | He only stared at her. |
「言って頂戴。それで通ってらしたの? | “Admit it. That’s why you came to me. |
あんた私を笑ってたのね。やっぱり笑ってらしたのね。」 | You were laughing at me after all.” |
出典:Snow country / by Yasunari Kawabata ; translated, with an introduction by Edward G. Seidensticker. -- C.E. Tuttle, 1957, c1956. -- (Unesco series of contemporary works ; Japanese ser.). |