竹取物語絵巻を見る

竹取物語絵巻上巻 概要


 『竹取物語』のあらすじは、1)かぐや姫の生い立ち、2)求婚譚(五人の貴公子・帝)、3)昇天、4)富士の山からなります。本絵巻の上巻は、1)2)三人目の求婚者の途中までの部分にあたります。
上巻第一図、かぐや姫の生い立ちの絵では、竹取の翁の家の貧しさが上品に描かれているのに対して、求婚譚に入ってからの翁の家は、立派な寝殿造り風に描かれ、翁や媼の衣装も豪華になります(とくに媼の描写が華麗であるのが特徴)。上品で落ち着いたタッチは、本絵巻の特徴の一つであり、全体に穏やかで乱暴さや破綻を意識させない構成となっています。
 上巻第二図は、五人の求婚者の話。第三図は、一人目の求婚者である石作皇子(いしづくりのみこ)の話。第四図第五図が二人目の求婚者である車持皇子(くらもちのみこ)の話。第六図は、三人目の求婚者である右大臣・阿倍御主人(あべのみうし)の話の一場面(中巻に続く)。一人目・二人目はともに皇子で、三人目も右大臣という高位の求婚者ですが、彼らはいずれも姫の難題をクリアできずに失敗してしまいます。求婚者の失敗について、物語は遠慮会釈なく描き出しています。多くの絵巻も物語に即して、彼らの失敗をビビッドに描写し、時には滑稽に描きだします。ところが、本絵巻は彼らの失敗を、あくまで静かな雰囲気に包みつつ、優雅に描出しているのです。絵巻の注文主の嗜好や、絵師の性質が窺えるところでしょう。

 

上巻 第一図(かぐや姫の生い立ち)

かぐや姫の生い立ち

かぐや姫が箱に入れられて、翁と媼に養われる様子を描く。
 物語本文で翁は、かぐや姫を光る竹の中から見つけて、「我、朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめり(私が毎日見ている竹の中から出てきたのだから、私の子になるべき人のようだ)」と判断し、姫を手の中に入れて家に持って帰った。そして姫を媼に養わせるのであった。
 物語本文に「こ(籠)に入れて養ふ」とあるのが、この場面。他の「竹取物語絵巻」や絵入り写本の絵では、かぐや姫が入れられているのは「籠」そのものとは限らず、「箱」の場合もある。ただ、この絵の「箱」は漆塗りのそれであるところが、それなりの格式を感じさせる。翁の家が貧しい茅葺風に描かれるのは珍しいことではないが、本図において全体に上品さが漂うのは、この漆塗りの箱の点描も一因であると言えよう。物語で翁は、このあと竹を取る度に、節に黄金を見つけることになる。

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上巻 第二図(五人の求婚者)

五人の求婚者

だんだん裕福になる翁。本図は、立派になった翁の邸内に、求婚者が集う場面。
 貧者であった翁が神秘な出会いの結果、裕福になるという筋書きは、炭焼長者(致富長者譚)のパターンに属する。かぐや姫は三か月ほどですっかり成人。翁は姫を「髪あげ」させ、几帳の中からも出さずに大切に慈しむ。かぐや姫の美しさは、翁の邸内を光で満たした。翁は姫の名前(「かぐや姫」)を付け、その祝賀の遊宴を三日三晩行ったので、世界中の男性が集まった。かぐや姫の求婚譚のはじまりである。なかでも「色好みといはるる人五人」が昼夜を分かたず押しかける。
 本図では、翁の邸内の左半分の画面に、かぐや姫・翁・媼が座す。いずれも豪華な装束を身にまとい、良家の親子の佇まいである。右半分の画面には、五人の貴公子(石作皇子、車持皇子、右大臣・阿倍御主人、大納言・大伴御行、中納言・石上麻呂)が仲良く集う。五人の貴公子はライバルであるはずだが、この図では安定した構図を成しており、平和的な風情を漂わせる。

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上巻 第三図(石作皇子

石作皇子

一人目の求婚者の難題話。石作皇子と「仏の御石の鉢」。
 かぐや姫に求婚した五人に対して、姫は結婚する気が全くない。求婚者たちに、自分と結婚したいのなら難題の品を持ってくるようにと言う。一人目の石作皇子に与えられた難題は、お釈迦様の使った鉢。皇子は、「心のしたくのある人(賢い人)」であったので、三年ほど天竺(インド)に鉢を探しに行ったと見せかけて、大和の国の山寺から黒ずんだ鉢を持ってくる。
 本図の左半分の画面は、錦の袋に入った鉢を前にする姫と、媼・翁。右端には、端坐する皇子。物語では結局、光るはずの鉢が少しも光らないので、鉢が突き返されることになる。皇子は鉢を門のところで捨てたうえで、「はち(鉢=恥)を捨てても」と恥知らずにも求婚を申し入れるが無視される。この後半部分を絵にする例もあるが、本図では、皇子の失敗を描くことはしないのである。

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上巻 第四図(車持皇子

車持皇子

二人目の求婚者の難題話。車持皇子と「蓬莱の玉の枝」。
 車持皇子に与えられた難題は、「蓬莱の玉の枝」。車持皇子は「心たばかりある人(策略家)」であったので、難波から玉の枝を取りに出かけたと見せかけて、密かにこしらえた竈に匠とともに籠る。そして姫の所望したとおりに玉の枝を作り出し、いかにも苦しげな様子で姫のもとへ見せに来た。皇子が持ってきた玉の枝に付けられた文には、「いたづらに身はなしつとも……」と命がけで玉の枝を入手した、皇子の想いを詠んだ歌が書かれていた。これに感動した翁が、皇子との結婚を姫に強く促すので、かぐや姫は物も言わず頬杖をついて嘆く。皇子はそのまま縁に這いあがり、翁もこれを無理ないことと受け止めて、人柄も素晴らしい皇子のこととて今回は拒否できまいと言う。
 本図の左画面では、姫・媼・翁が玉の枝をはさんで座している。右側の画面には、車持皇子が端坐する。第三図と同様に、きわめて安定した構図で描かれている。

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上巻 第五図(車持皇子、続き)

車持皇子、続き

車持皇子の嘘が露顕する場面。
 かぐや姫が皇子のことを憎らしく思うかたわらで、翁は新婚夫婦のために閨の準備をする。皇子に翁が、苦労の程を尋ねたので、皇子は一昨年に難波から船出してからの苦労を長々と語り続ける。そこへ男どもが六人、連れだって翁の家の庭へやってきて、文を差しだす。
 本図はその場面。右手奥に、かぐや姫。簀子に媼が左画面のほうへ顔を向けて、様子を窺っている。左半分の画面の庭に、匠(絵では四人)が描かれ、そのうちの一人が挟み文を簀子にいる翁に差し出している。廂の間で凝固している風情で描かれるのは皇子。皇子の嘘が露顕する、まさにその瞬間のストップ・モーションである。このあと物語では、玉の枝を突っ返された皇子は、日暮れにまぎれてすごすごと引き上げる。かぐや姫にたくさんの褒美をもらった匠たちを、道中でこっぴどく打ちすえたあと、恥に耐えかねて深い山中に姿をくらました。

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上巻 第六図(右大臣阿倍御主人

右大臣阿倍御主人

三人目の求婚者の難題話。右大臣阿倍御主人と「火鼠の皮衣」。
 阿倍の右大臣は「たからゆたかに家ひろき人」で、その財力で難題に挑む。難題の「火鼠の皮衣」を、右大臣は「もろこし舟(遣唐使の乗る舟)」に乗る「小野房守」を通じて、唐土から取り寄せた。唐土の商人「わうけい」からは追加金(黄金五十両)を要求される。右大臣は惜しむことなく、「わうけい」に感謝しつつ、唐土の方角に向かって伏し拝み喜んだ。
 本図は、「小野房守」が右大臣のもとへ、「火鼠の皮衣」を持ってきた場面。左端の人物が右大臣で、左袖が上に少しはねあがって描かれるのは、右大臣の喜びを表している。この絵巻の落ち着いたタッチのなかでは珍しい描かれ方だが、物語にみる右大臣の人の良さがうまく捉えられている。右下の画面の船は「もろこし舟」で、舟人たちの描写が唐人風で、船底の模様も唐風のデザインになっている。

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