はじめに


 源実朝(みなもとのさねとも 1192-1219)は鎌倉幕府第三代将軍ですが、歌人としてもよく知られています。京の文化にあこがれて和歌を14歳ごろから始めて歌壇の権威である藤原定家の門下となり、当時完成したばかりの『新古今和歌集』の影響を受けました。実朝は不幸にして28 歳で暗殺され、短い生涯を閉じましたが、晩年の万葉調の和歌は、近世の賀茂真淵や近代の正岡子規等に高く評価され、和歌史上大きな影響を残しています。唯一の著作である『金槐和歌集(鎌倉右大臣家集)』には 700 余首が編まれています。

 斎藤茂吉は(さいとう・もきち 1882-1953)は山形県生まれの歌人で、14歳のときに親戚の医師に招かれて上京、精神科医になるため東京大学に学びながら、伊藤佐千夫に入門し歌人を志しました。歌誌『馬酔木』に作歌を発表、『アララギ』の編集にも関わり、1913 年には大作「死にたまふ母」などを含む歌集『赤光』を出版して注目を浴びました。斎藤茂吉は評論活動も活発に行い、実朝の和歌を高く評価し『源実朝』は精神科医としての仕事の傍ら何種類もの文献を考証しながら行った、長年の実朝和歌研究の研究成果です。1940年には『柿本人麻呂』全5巻も上梓しています。

 このたびのデジタルライブラリは、立教大学が文部科学省の補助金を得て2013年度に購入した、斎藤茂吉著『源実朝』の草稿、1943年刊行の『源実朝』初版本、茂吉旧蔵の『金槐和歌集』の和本、を紹介・公開するものです。

立教大学図書館