立教大学所蔵のロイド英訳書のうち、日本画の挿絵や和歌の筆跡が美しい3点をデジタル化しました。
White Aster, a Japanese epic(『孝女白菊の詩(うた)』)は活版による文字印刷に木版刷りの挿絵を組み合わせた欧文挿絵本「ちりめん本」です。印刷済みの和紙を縮緬紙(クレープ・ペーパー)のようにしわ加工してから裁断し、絹糸で和綴じにしてあります。ずっしりと重くしなやかな感触から、絹織物(縮緬)に印刷したと誤解されることもあるようですが、その高度な印刷技術は現代では再現が難しいといわれています。フローレンツによるドイツ語訳をロイドが英訳したちりめん本として、このほかに1896(明治29)年刊行のPoetical greetings from the Far East(『東の国から詩の挨拶』)があります。
また、A birth-day book of Japanese verse, old and new(『誕生日記念帖』)は洋本の体裁で、ちりめん加工していない「平紙(ひらがみ)版」ですが、日本画の木版刷りで定評のあった審美書院から出版されました。これも広義の「ちりめん本」といえるでしょう。日本の物語や詩歌に美しい挿絵を添えた「ちりめん本」は、海外に輸出されて評判を呼びました。
一方、Imperial songs(『御歌(ぎょか)』)は和綴じの大判豪華本です。刊行のRikkyo Gakuin Pressは、築地の立教学院で1900(明治33)年にロイドが私費を投じて苦学生の自活のために設立した活版印刷所です。
ロイドは英国教会宣教師として32歳で来日、59歳で亡くなるまでの間、慶應義塾、立教学校を経て、東京帝国大学でラフカディオ・ハーンの後任の英文学教授を務めるなど、さまざまな足跡を残しました。明治日本の発展をみつめ、仏教、神道、ローマ・カトリック教などに深い理解を示したエキュメニズムの先駆者、異色の聖公会宣教師といえるかもしれません。インドで英国軍人とドイツ生まれの女性との間に生まれ、ケンブリッジ大学で古典を、テュービンゲン大学でサンスクリットを学んだロイドは言語に堪能で、文学の素養を生かして日本文学、特に詩歌に親しみ、英訳して海外に紹介しました。キリスト教の布教のために来日したロイドですが、明治日本の息吹を海外に伝える重要な役割も果たしたといえるでしょう。
池袋キャンパスのいくつかの建物には、立教学院の建学に関わった方々の名前が付与されています。
2012年11月に新しく建築された池袋図書館のある18号館の名称は、「ロイドホール」で、アーサー・ロイド初代立教学院総理にちなんでいます。2014年度のデジタルライブラリの企画として、このアーサー・ロイドが英訳した著作を取り上げ、電子化して公開することにいたしました。
(立教大学図書館)